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SAN値低めで御送りします
ブーン系空気作者の雑記&自作品まとめ かなりの頻度でクトゥルフも
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363: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:35:09 ID:MsfxELuk0
39.日常を生きる



寒さを凌ぐ為に、駄目元で赤石を訪ねる。

あらゆる意味で駄目な気しかしないが、アポなし来訪を許容し、
予約なしの宿泊を許可してくれる友人は内藤と赤石の二人しかいない。

そんな赤石邸の部屋の扉を開ける前に、宿の主人に出迎えられた。
声をかけてもいないし、ノックもしてない、事前に連絡もしていない。
なのに、扉の前に来た瞬間、向こうから歓待された。

監視カメラか盗聴器か。危機感を抱く。


(  ゚∀゚ )「よお兄者! なんだか久しぶりだな」

(;´_ゝ`)「そ、そうか? 一か月も経ってないぞ」

そう、これは偶然だ。偶然に決まっている。
ちょっとタイミングが、がっちりフィットしただけなんだ。
きっと、今からゴミでも出しに行くんだろう。もう昼だけど。

364: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:36:58 ID:MsfxELuk0
普通に部屋に入ろうとしていたのに、腕を引かれて部屋に連れ込まれそうになった。
入るつもりだった。入るつもりではあったけど、強制されると反射的に抵抗してしまう。

強引に体を捻じって腕を解く。ターンではない。
しかし、傍から見れば男同士の社交ダンスだ。


( ;゚∀゚ )「あ、あれ? 入らねえのか?」

( ´_ゝ`)「入る……つもりで……来たが……」

自分から進んで入るのと、強制連行収容はかなり違う。
あと掴まれた部分が地味に痛い。どんだけ力込めてんだよ。
薬のせいで筋肉のリミッターが解除されてるのか、無意識なのか。

どちらにしろ拒否一択だ。部屋に入る選択肢は消えた。


( ;゚∀゚ )「ここで話すのも何だから! 部屋で話したいだけなんだ!
       決して兄者を害しようとか! そんな! ないから! 絶対!」

( ´_ゝ`)「そこまで力強く否定するなら信じよう。部屋には入らないがな。
      寒くもないから、ここで話せよ。長話じゃないんだろ?」

頭を抱えながら、あーうー唸り始める赤石。
考え事をしているのか、薬が切れたのか、ゾンビ化し始めるのか。

365: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:37:56 ID:MsfxELuk0
(  ゚∀゚ )「その……前に俺がバカやったじゃん? 一週間付き合おうとか」

( ´_ゝ`)「おっ、もしかして症状が軽くなったのか? ようやく目が覚めたか?
      男に走ったとかいう話が田舎で飛び交えば村八分待ったなしだぞ。
      広がる前でよかったな。内藤には記録されてるが、俺なら忘れてやるぞ」

(  ゚∀゚ )「え?」

( ´_ゝ`)「え?」

( ;゚∀゚ )「……俺は、そっちの都合も考えずに『一週間付き合おう』って、
      勢いで言っちまったのを謝罪したかったんだ……です、けど。
      まだ諦めきれないし、母親のせいで女は信じれないんだよ」

( ;´_ゝ`)「ああ……そう……頼むから早く目を覚ましてくれよ。外聞的に考えて。
      俺はゲイじゃないし、バイセクシャルでもない。ただのリョナラーだ。
      それと一週間って、とっくの昔に過ぎ去ってるだろ。まさか延長か?」

(  ゚∀゚ )「そうじゃない。そうじゃなくて、『一週間』ってのを『七日間』にしたい」

赤石の話を要約すると「七回デートに付き合ってくれ」というものだった。
まだ正気に返ってはくれないらしい。どうやったら穏便に元の関係に戻れるんだ。

と言いますか、脱糞処理ってそんなに好感度上がるん?
普通は、人に脱糞したとこ見られたら、恥で死ねるんじゃないの?

何なの? 赤石はスカトロ趣味でもあんの? 馬鹿なの? 不潔なのは大嫌いなんですけど?
主治医の意見書にわざわざ”不潔への恐怖”って書かれるくらい汚いのはヤなんですけど?

攻略難易度が高い。赤石の親父さん、早く息子の狂行を止めてくれ。
それとも、全部知ってて放置してるのか。存在自体が不透明だ。

366: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:39:14 ID:MsfxELuk0
兎にも角にも、赤石のマンションから無事に逃げ切った。
効果はあるかわからないけど、神社仏閣に赤石が正気になるよう祈ろう。

それか、赤石の好意の対象が弟者に移るよう願うか。
もし実際にそうなったら、きっと俺だけが楽しい。

.
.
.

母親が胃潰瘍になりそうな妄想をしていたから罰が下ったのか、
赤石が後ろから着いて来てる事に気づけなかった。クソが。


( ;゚∀゚ )「なあ兄者この後ちょっと時間あるか!?
       時間あるなら折角だし俺とでっ、でででーt」

( il´_ゝ`)「頼むから、そこ普通に『遊びに行かないか』って誘えよ」

(  ゚∀゚ )「いいのか?」

( ´_ゝ`)「ちょっと待った。かなり考えさせろ」

( ;゚∀゚ )「お、おおう……」

367: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:40:03 ID:MsfxELuk0
デートだの逢引きだの、ふざけた言葉は全て無視。
言葉を変えるから駄目なんだ、普通に遊びに行くだけと考えればいい。

遊びに行くにしても、二人きりになる場所は避けよう。
決して醜聞を出してはならない。未来の俺と赤石と斎藤の為だ。
紙の上だけとは言え、俺と斎藤は一応夫婦だ。飛び火は防がねば。

赤石がやたらしたがっている恋人らしい行いも却下。
荷が重い。思いも重い。赤石のバックも重すぎる。ついでに俺も。

後はメリットか。


( ´_ゝ`)「今から赤石と『遊びに行く』のは、一回分と考えていいか?」

(  ゚∀゚ )「おおともよ!」

上々。もう今日は半日もない。
苦行が短い時間で済むなら何も言う事はない。


( ´_ゝ`)「流石に夜まで遊びに付き合えってのはないよな?
      母さんは仕事忙しいし、あのアホは入院してるから」

(  ゚∀゚ )「こっちも駄目元で言ったから気にすんな。無理はしなくていいぜ」

368: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:41:16 ID:MsfxELuk0
じゃあ早速! と手を握ってきたので振り解いた。
勢いをつけすぎて、一方通行の道路標識に手を強打する。

腐りかけだったのか、ゆっくりと車道に倒れていき、百合のように折れた。


( ´_ゝ`)「街中でそういう事はやめてくれないか」

( ;゚∀゚ )「やっぱ駄目か」

( ´_ゝ`)「俺が了承すると思ったのか」

(  ゚∀゚ )「人目が気になるのか?」

( ´_ゝ`)「そりゃな」

(  ゚∀゚ )「なら人目の少ないとこに行こうぜ!」

やっべ墓穴掘った。埋めねば。


( ;´_ゝ`)「そんなに手を繋ぎたいならせめて深夜にしてくれないか。
      暗けりゃ(多分)繋いでる手も(きっと)見えないだろうし」

( *゚∀゚ )「そうか!」

369: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:42:46 ID:MsfxELuk0
掘った墓穴に赤石を埋めればよかった。
人目のつかないところで、いっそ赤石を殺ればいいんだ。

そんな危険な考えが頭を掠める。いかんいかん。


( ´_ゝ`)「ところで遊びに行く宛はあるのか?」

(  ゚∀゚ )「無難に映画館デートを」

( ´_ゝ`)「デート言うな」

(  ゚∀゚ )「それと記念写真」

( ´_ゝ`)「黒歴史にしかならないぞ。良くて自分への戒めだ」

(  ゚∀゚ )「あと名前呼びに戻してほしい」

( ´_ゝ`)「はあ? 何言って……」

(  ゚∀゚ )「無自覚?」

370: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:44:09 ID:MsfxELuk0
( ´_ゝ`)「…………」

(  ゚∀゚ )「赤石って呼んでんぜ」
  _, 、_
( ´_ゝ`)「……いつから?」

(  ゚∀゚ )「わからねえが、兄者も俺を意識してるって事だよな!」

( ´_ゝ`)「うん、同性から『付き合おう』って言われて意識しない人間はいないから。
      考えない人間がいたら、そいつは勘違いしてるか、知恵遅れか、動物だ」

(  ゚∀゚ )「難しいことはいい! 気軽に名前呼びに戻していいんだぜ!」

( ´_ゝ`)「んー……ん、そうだな。気が治ったらな」

その後、見に行った映画は全く興味を惹かれなかったので、別の事を考えていた。

内藤、鬱田、斎藤。弟者の取り巻きも苗字で覚えている。
またんきは場所と状況により使い分けているから少し違うが、
俺は基本的に人の事を苗字で覚えて、呼んでいる。

むしろ何で今まで、赤石をアヒャと呼んでいたのか。

371: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:45:09 ID:MsfxELuk0
赤石の手が俺の手に伸びてきたので、思考中断。
横を見れば、赤石は映画を見続けている。

何をどう思っているかはよくわからない。
元々肌が赤い種族だから、怒りも照れもよくわからない。

まあ、会場の端っこの席だし。
俺達の後ろに人はいないし。
映画はクッソつまんねえし。

このまま寝よう。うん。おやすみ。



372: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:46:46 ID:MsfxELuk0.





(  ゚∀゚ )「映画面白かった?」

( ´_ゝ`)「途中から寝てた」

(  ゚∀゚ )「何しに映画館来たんだ」

( ´_ゝ`)「1500円払って寝に来た」

( ;゚∀゚ )「……もしかして怒ってる?」

( ´_ゝ`)「いいや」

( ;゚∀゚ )「すまん」

( ´_ゝ`)「何で謝るんだ」

( ;゚∀゚ )「いやあ、金払わせてつまらん映画見せちまって……」

( ´_ゝ`)「アヒャには怒ってないぞ。内藤達と来る時も、俺寝てるし」

373: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:48:13 ID:MsfxELuk0
(  ゚∀゚ )「本当に何しに来てんだよ」

( ´_ゝ`)「寒くてうるさい場所に寝に来てるんだよ」

それから上映してる映画を赤石の奢りで片っ端から見て行ったが、
殆ど内容は頭に入って来なかった。爆音の睡眠学習は無意味だったようだ。

最後のほうになると、赤石もいびきをかいて寝ていた。
映画を見ている客も、俺達とおっさん一人しかいない。
しかもそのおっさんは、映画を見ながらシコっていた。

どうせ金を払って寝るなら、ネカフェにでも行って寝た方がよかった。
おっさんは映画を見る金でソープに行けば良かったんだ。汚ぇモン見せやがって。


(  ゚∀゚ )「もう映画はやめよう」

( ´_ゝ`)「賛成、イカ臭い」

(  ゚∀゚ )「無駄に時間使っちまったし、さっさと記念写真を撮ろう!」

( ´_ゝ`)「これからゲーセン行く? 閉まってるんじゃないか?」

(  ゚∀゚ )「え?」

( ´_ゝ`)「へ?」

374: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:49:39 ID:MsfxELuk0
( ´_ゝ`)「記念写真ってプリクラじゃないのか?」

(  ゚∀゚ )「スマホで撮るだけだぜ。兄者って変なとこで女っぽいな」

( ´_ゝ`)「異論しかない」

(  ゚∀゚ )「普通の男は母親と一緒に入浴剤選ぶの手伝わねぇって!」

( ´_ゝ`)「風呂に色々入れるのが好きなだけだっつの。
      スマホでいいならもうここでさっさと撮ろうぜ」

(  ゚∀゚ )「景色いいとこで撮りたいんだよー」

( ´_ゝ`)「時間ないし眠いし歩くのダルいしもう無理。
      ここで撮らないなら次に回せばいいじゃん」

(  ゚∀゚ )「次は次でちゃんと撮るぞ。うん。まあ今はここでいいか」

( ´_ゝ`)「確認しておくけど、その写真をネットに流すのはやめろよ」

( ;゚∀゚ )「しないって!」

( ´_ゝ`)「フェイス本もツイッタもミクソも全部アウトだかんな」

(  ゚∀゚ )「しないしない。ネットに繋げてない俺のPCに保存するだけだ」

それはそれで不安しかない。

375: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:50:44 ID:MsfxELuk0
不安を置き去りに、赤石からポーズ指定が入る。近すぎない?
それから赤石がスマホをいじくって、タイマーシャッターでぱしゃり。


(  ゚∀゚ )「もっと笑顔で」

( ´_ゝ`)「精一杯の笑顔です、それ」

(  ゚∀゚ )「刑事ドラマに出てくるゲスい下っ端ヤクザの面だぞ、これ」

やけに具体的な罵倒を胸に、もう一度。


(  ゚∀゚ )「さっきよりはいいな」

( ´_ゝ`)「勘弁してくれ」

(  ゚∀゚ )「上手く取れたら兄者の携帯にも送るから」

( ´_ゝ`)「いらねえ。つか、俺の携帯壊れてるけど?」

( ;゚∀゚ )「はぁあ? マジか。どうりで全然繋がらないと……」

あ、でも弟者にこの写メ送るのはいいかも。
あいつ赤石のこと嫌ってるし、嫌がらせに調度いい。
そう思えば、笑顔も作れる気がしてきた。

376: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:51:46 ID:MsfxELuk0
( ´_ゝ`)「写メはさ、弟者の携帯に送ってくんね?」

(  ゚∀゚ )「分かった」

自分なりに、最高の笑顔でパシャっと。
赤石に見せてもらえば、中々の出来。

うん、この状況でこの笑顔は、良い感じに誤解してくれそうだ。
性欲に支配されてる脳味噌で、思いもよらない邪推をしてくれるだろう。


(  ゚∀゚ )「弟者のメルアドは?」

( ´_ゝ`)「今は確か、あー『兄者殺す』」

( ;゚∀゚ )「……は? えっと、もう一回頼む」

( ´_ゝ`)「アルファベットで『兄者殺す』ってそのまま打てよ」

(  ゚∀゚ )「これで本当に届くのか?」

( ´_ゝ`)「直行便だよ」

(  ゚∀゚ )「そういや兄者のメルアドは『弟者死ね』だったな」

377: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:52:49 ID:MsfxELuk0
メールを送ってしばらくして、赤石にはメボムが届けられた。
件名は空。本文には『赤石ぶっ殺す』と一言。

着信拒否をしても別のアドレスから来るので、
赤石はスマホをもう一台取り出した。


( ´_ゝ`)「何台持ってんの?」

(  ゚∀゚ )「父親との連絡用と、俺個人の仕事用とー。
      あとプライベート用に三台あるぜ!」

( ´_ゝ`)「持ちすぎ」

(  ゚∀゚ )「一台やろうか?」

( ´_ゝ`)「流石に受け取らない」

メボムの爆撃が続けられているスマホなら、尚更。

その後、ぶらぶらし過ぎて遅くなり、田舎へのバスがなくなったので、
久しぶりにネカフェにお泊りした。何故か赤石も一緒についてきた。

当たり前だが、部屋は別々に取った。

378: ◆T/D40qQ./Q:2015/08/10(月) 01:53:36 ID:MsfxELuk0
後日、俺はデートという概念の複雑さを知った。








39.糸冬

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